十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)は貧血や慢性疾患、病後の体力回復に効果を発揮する漢方薬です。気虚と血虚を同時に改善する効能があります。
体内を流れる気と血(けつ)とは深い関係にあり、お互いのバランスを保つことで良い気血の状態を維持しています。一方が不足すると片方も不足しやすく、あるいは片方の流れが悪くなると他方の流れも悪化しがちです。
気と血の両方が不足している体質や状態を改善して効果があるのが十全大補湯です。
目次
十全大補湯はどんな人に効果がある?
十全大補湯は、消耗性の疾患に適応のある処方で、長期の病気や術後の体力回復に利用されます。また、貧血気味で血色があまりよくなく、不眠や寝汗がみられる場合によく利用されます。
即効性はなく、数日から数週間、続けてみる必要があります。抗がん剤治療などで体力が落ちていて、肌のあれや抜け毛が気になる場合にも利用されるが、治療中は必ず主治医に相談すること。
十全大補湯は、「気血両虚、虚寒」証を改善する処方です。
人の体を構成する基本的な成分は、気・血・津液です。これらが適量、バランス良く体内を流れているとき、人は健康でいられます。逆に気・血・津液の量が少な過ぎたり、流れが悪化すると、体調を崩し病気にかかります。
気が不足した証を気虚、血の機能が低下した証を血虚と呼びます。気血と血虚が同時に起こっている証が「気血両虚」です。
気虚の症状
気虚の状態になると、免疫力や代謝の低下、神経の興奮性の減衰、造血機能の低下など、体内で様々な機能が低下します。元気がない、疲れやすい、息切れをしやすい、手足がだるい、声に力がない、口数が少ない、顔色が白い、唇や爪の色が白っぽいなどの症状が特徴です。
食欲不振、消化不良、味覚の低下、むくみ、軟便などの症候も生じます。腸の蠕動(ぜんどう)運動が弱まって、便秘になることもあります。ウサギの糞のようなコロコロした便になることもあります。
血虚の症状
血虚になると、体の各部で血液や栄養が不足した状態となります。
血虚で肌に必要な栄養がいきわたらなくなると、顔色が悪い、肌に艶がない、肌が乾燥する、唇が荒れるなどの症状が起こります。頭髪や爪に栄養がいきわたらないと、髪の毛が細く弱々しくなったり、爪はもろくなり色も悪くなったりする症状が出ます。
血虚で脳に栄養が不足すれば、頭がぼ一っとし、めまいや立ちくらみ、耳鳴り、頭痛などが起こります。目には、目の疲れ、かすみ、ドライアイ、目のピントが合わないといった症状が表れます。
神経系や筋肉の栄養が不足すれば、手足のしびれ、痙攣、こむら返り、関節痛などが起こります。女性では卵巣などへの栄養供給が滞り、生理が遅れ、経血量が減るなどの症状が起こります。
血虚の状態が長く続くと、精神面にも影響が出てしまい、動悸、不安感、焦燥感、忘れっぽい、寝付きが悪い、眠りが浅い、夢をよく見るなどの症状に悩まされます。
気と血の両方が悪化した気血両虚では、慢性的な体調の悪さが続き、機能面と栄養面の両方が衰弱した状態と言えます。このため、手足の冷えや寒気といった症状が起こりやすくなります。この冷えや寒気が「虚寒」です。
舌は腫れぼったくなったり(気虚の特徴)、白っぽい色(血虚、虚寒の特徴)をしていることが多いです。
この漢方薬を使う主な症状
十全大補湯は、病後・術後の体力低下、疲労倦怠、産後の強い倦怠感、食欲不振、寝汗、手足の冷え、貧血、
血色が悪く、疲労倦怠感が持続している場合などに使われる漢方薬です。
十全大補湯を使う主な症状は、気血両虚や虚寒の症候を現わす以下のようなものです。
貧血
冷え症
慢性胃炎・慢性肝炎・慢性腎炎・慢性腸炎
低蛋白血症
栄養失調
下痢
痔瘻・脱肛
腰痛
自律神経失調症
倦怠感
疲労
不眠症・神経衰弱
視力低下
生理不順、無月経、不正性器出血、不妊症、不育症などの婦人科の症状
更年期障害
手術・出産・出血・病後の衰弱
十全大補湯の処方
十全大補湯の配合生薬は
①人参
②白朮
③茯苓
④甘草
⑤地黄
⑥当帰
⑦芍薬
⑧川芎
⑨黄耆
⑩肉桂
の十味です。
十全大補湯の君薬の人参は、消化吸収機能を向上させ(健脾)、気を補う効果があります(補気)。同様に君薬の地黄は、血を中心に陰液を補う効果があります(滋陰補血)。人参と地黄で気血を補います(益気養血)。
臣薬は白朮、茯笔、当帰、芍薬の四味です。白朮は健脾と同時に湿邪を除去する効果があります(燥湿)。茯苓も健脾燥湿し、下痢を止め(止瀉)、気を流す効能があります。白朮と茯苓の組み合わせで人参の補気健脾効果を強めます。当帰は血虚を補うとともに(補血)、血の流れを改善します(活血)。芍薬は補血と同時に気血の流れの調節をする効果があります(平肝)。筋肉の痙攣を鎮める効果もあります(鎮痙)。当帰と芍薬の組み合わせで、地黄の滋陰補血効果を強めます。
川芎は佐薬として、気血の流れをスムーズにする効果があります(活血行気)。
当帰、芍薬、川芎は卵巣機能を改善し、月経調整に働きかける効能を持ちます。
甘草は使薬として脾胃の機能を調和しつつ(益気和中)、生薬の薬性を調和します。
黄耆は、消化吸収機能を高めて気を補い(補気健脾)、体表を固めます(固表)。
肉桂は、血液の循環を促して体を温め、益気養血効果を強めます(補陽祛寒ほようきょかん)。
これらの十全大補湯の効能を「益気補血、温陽祛寒」と呼びます。
十全大補湯は気を補う生薬(補気薬)と血を補う生薬(補血薬)がバランス良く組み合わされています。
十全大補湯の出典は『和剤局方』です。
十全大補湯の体験談・口コミ
口コミ①糖尿病による疲れやすさに十全大補湯
しばらく糖尿病に悩まされています。糖尿病のせいで体重が減り、疲れやすいです。通院と食事療法で血糖値はコントロールできていますが、疲れで体が動きません。
十全大補湯を使用して半年頃から体重が増え始め、1年後には倦怠感が少なくなりました。仕事も以前より捗るようになりました。
口コミ②不妊に十全大補湯
不妊症に悩んでいます。婦人科で体外受精をしていますが、40歳を過ぎたためか、なかなか妊娠しません。疲れやすく、冷え症もあります。月経不順もあります。
十全大補湯を使用しはじめて3力月後に、婦人科への通院による疲労とストレスから不妊治療を中止しましたが、その後、次第に月経周期が良くなり、一年後に妊娠しました。
口コミ③貧血と冷え症に十全大補湯
ずっと貧血と冷え症に苦しんでいました。普段からふらつくことが多く、酷いときは気を失うこともあります。疲労感も多いです。
十全大補湯を服用して、半年ほどすると、諸症状が改善に向かいました。
十全大補湯を使った製品の例一覧
散剤 | 十全大補湯エキス(小太郎漢方製薬、三和生薬、東洋薬行、松浦薬業)、ジュホトウ(大杉)、ホノミジュンケツ粒(剤盛堂薬品)、jps漢方顆粒-70号(ジェーピーエス製薬)、離雲(建林松鶴堂)、十全大補湯エキス(一元製薬製薬、三和生薬、東洋漢方製薬、東洋薬行) |
錠剤・カプセル・丸 | 十全大補湯エキス錠(大峰堂薬品工業、クラシエ薬品、三和生薬、ジェーピーエス製薬、伸和製薬、日邦薬品工業)、ジューゼンs(小太郎漢方製薬)、ホノミジュンケツ錠(剤盛堂薬品)、錠剤十全大補湯(一元製薬) |
液剤 | 補全-s(明治製薬/日水製薬) |
湯薬 | 十全大補湯(ウチダ和漢薬、タキザワ漢方廟、東洋漢方製薬) |